サークルクラッシャーコォー Part1




※当記事は「追憶篇」カテゴリにあり、原則筆者の経験に基づく内容を記載しておりますが、ほんのちょっとだけ盛っていたり実際の情報とは異なったりします。






あぶれもの
これには何のメッセージも無い。






よう。



堕ちれど堕ちれど果ては無く、そこは横に広がりつづける。
ならばせめて、闇のぬくもりを知る前に。






インターネットで大失敗をする癖のある人は、それはもう持病と言っても差し支えがない。
治ることは無いので絶対に近づいてはいけません。マンモスに目ェつけられた時点で終わり。



今日はオフ会の体験について記すとしましょう。
とりあえず、何度か経験しているので暫定でPart1とします。続くかは記憶次第。



僕はオフ会というものに割と行く方で、毎日顔を合わせる関係とは違う一度きりの対人関係に憧れては何度も苦い思い出を作っていたりします。特に恋愛やらを目的にしているワケは無いのに、バカなのかすぐ失敗します。





やっと逃げ切った中学生活が終わり、高校生になる日を震えて待ちながら送った春休みの土日、僕は人生でだいたい二度目くらいのソレに行きました。






集合場所は上野。そのたいして集まるほどでもない1エリアに何故か、どこからか同じ色の服を着た人達が集まり、規定の人数に達すると各々で遊び出しては飽きたら解散してそこをがらんどうにするといったちょっとイタズラっぽい大規模オフ会。



これは後のVIPバレンタインうまい棒買い占め企画等に通ずる「ネットの住民がリアルでちょっとした不自然なイタズラをする系企画」のようなもので、実行の1ヶ月前から数人で練られて決行されました。その企画したコミュニティも発祥はVIPだそうですが、実際に会った人達は思ったよりずっと若く当時15歳だった僕と同年代の高校生なんかもそこそこ多かったので、純粋なVIPPERが居たかどうかは定かではありません。



掲示板にはある日オフ会の企画スレが立ち「突然同じような色の人が集まって同じことしてたら面白くね?」といった感じのレスに始まり「突然整列し始める」「一列になって商店街を通過する」「近所のコンビニに殺到し埋め尽くす」などの提案がありましたが、なんやかんやで「上野公園に塊を作って立ち止まりうつむきケータイをいじる」「そのあと希望者で大規模なドロケイをする」に落ち着きました。今となっては相当ガバガバな計画で、あまり驚きの光景を残せていなかったはずですが、僕はそのイタズラ心を掻き立てられずにはいられませんでした。ていうか上野公園なんて毎日人の塊であふれ返ってますし大道芸人やらストリートパフォーマンスも盛んなので無意味なんですよね。



当日、幼心をガタンゴトン揺らして電車を乗り継ぎその場に行くと、既に30人ほど青い服を着た人達がぽつりぽつり。
驚くほど中途半端な位置に立ち尽くし黙々と実況スレを更新し圧迫しているようで、僕も一緒になってその一員となりました。



そのコミュニティではコテハンの風習があり、僕は数分実況のやりとりをしながら皆と同じく自分の特徴を皆に伝えていると、中央(?)にあった人の塊から絵に描いたようなビデオチャット配信主といった風体の、オタクが明らかに好きになるエロい女の子が歩いてきて、僕の絵に描いたようなオタクの青いチェックシャツに向かって「郡山くんでしょ?」と言います。僕は「うん、よろしく」と答えます。



相手の名前を訊き返すことなど思いつきすらしないのです。それでも女の子は「ぽめらに(仮名)です。よろしくね」と言ってくれます。ぽめらには名前からして絶対ドブスだと思っていたので心底驚きました。パンツとか見たかった。



ぽめらにと合流してから中央の塊に顔を出すと、実質的な主催陣であるレス率が高い常連のコテハンを名乗る者達が6、7人ほど。
僕も企画時点からスレに張り付いたり、この不毛なイタズラオフの仲間を募集する要項を記したスレを立てたりしていたため、名前だけは浸透していました。有象無象のうつむき携帯弄りオタクに対して彼らは社会人っぽい感じを醸していたり大学生だったりする模様で、イケメンに美人率も高く、初対面の相手である僕と難なくやりとりをしてくれるので、僕は陰キャだと悟られぬよう、あるいは中学時代の鬱憤を晴らすよう必死に取り繕っていました。高校でも結局教室で弄られるかぼっちかのどちらかでしたが。



立ち止まってケータイをいじる遊びはすぐに飽きたので20分ほど彼らと話そう話そうとうろうろしていると、そこにマルちぃ☆(仮名)は現れたのです。



──そうか、こいつがか。






マルちぃ☆は顔文字と半角カタカナを使ってレスをかましては可愛がられていたゆるキャラでした。日記を見るにどうやら持病があって入退院を繰り返しているためろくに学校へも行けず友達もおらず、このオフ会を心底楽しみにしていたようでした。
彼女は中心の塊で日傘を差して、自称歌い手と生主と社会人のアラサーのおじさんとぽめらに達に時々囲って貰いながら、ぽそぽそと喋り、それでも楽しそうでした。
なおゴスロリを着たメガテンアバドンのような姿をしています。



僕はこの絵面との対峙のしにくさに戦慄しました。来たことをマッハで後悔し、昼の12時だけど今すぐ本屋でもめぐりながら帰路につこう、このコミュニティではもうこの「マルちぃ☆は想像を絶するドブス」という事実を脳裏にチラつかせながら生きるのは無理だ、今日はなるべく関わらないようにしようと考えましたが、時既に遅し。実況スレではこの頃僕が見ていない間に



「集まってきたのでドロケイに移行します。立ち止まってケータイ弄くる会だけでいいやって人も集まってくれてありがとう!中央の塊で差し入れ配ってるよ~!」



なんて主催のレスがあったので、僕はその後残された30人でのドロケイに巻き込まれることとなりました。



デブでもないのに絶望的に足の遅い僕は毎ラウンドすぐに捕まります。そうすると日陰の牢獄に連れて行かれ、看守と喋るか実況スレを見るか、噴水を眺めるしかやることのない地獄に囚われます。看守は体の弱いマルちぃ☆と数人の囲い。囲い達が「来られて良かったね」「水分とり忘れないように気を付けないとね」とマルちぃ☆に話しかけ、時には黒執事とデュラララの話題で盛り上がり、そこに偽善だったとしても筋の通った行動をする囲いと必死に生きようとする姫の形があり、僕は終始気分が悪かったのです。とりあえず話を聞かないように掲示板で全く関係のないスレばかり眺めていました。



2時間ほどすると流石に誰もが飽きたようで、30人規模でのドロケイは終わり、フィーリングで二次会が始まります。



特にどこにも予約を入れていないものの半数以上が未成年であること、僕とたまたま隣に居た陰キャのpapy君(仮名)が「カラオケだけは嫌だ」とその日最大音量の悲鳴をあげたこともあり、ファミレスでおしゃべりでもするかと結論が出て一行はおおよそ御徒町あたりのサイゼリアに。



流石に全員で押しかけるのは忍びないため、他メンバーを夜行バスを待つ列のような規模で通りに残し僕を入れた5人ほどで入店。

歌い手を名乗るマルちぃ☆の囲いが申し訳なさそうに「全部で31人なんですけど…いいすか…」と店員に言うのを皆でちょっとニヤニヤしながら誰かがいつの間にか更新している実況スレは「ちょwwwテラ迷惑wwwwwwwww」と盛り上がり、申し訳ないながらもイベントとしては悪くないエピソードを残せたことでそこそこ気分がよくなった我々(彼ら)はサイゼリアの窓際に合コンのように席を並べて近くのメンバーと会話に花を咲かせました。



ぽめらにがマルちぃ☆の囲いから恐らくオフパコという本当の目的にシフトするべく歌い手の隣で必死に性的なアピールをしていたであろう頃、僕はそんな会話も一切聞こえない壁際の席でやるせなさをもんもんと燻らせて居ました。



僕は向かいで画面の割れたPSPで遊んでいるpapy君に「これ無理じゃね?」と耳打ちすると「俺もちょっと無理」といった素直な嘆きが返ってきたりして、陰キャなりに楽しめていました。特に盛り上がる話題もありませんでしたが、昼休みに一人ぼっちを避けるためつるむ、利害関係にある陰キャ同士の緩い絆が早くも目覚め始めていた記憶があります。



30分ほどで中心人物らしきアラサーのおじさんと大学生のお姉ちゃんから「思ったよりも店に迷惑をかけてしまっているので三次会のカラオケor解散」と提案があったため、僕らはそこで帰路につきました。残ったメンバーはおおよそオフパコでしょう。



帰宅してからは実況スレで終わりの挨拶のような文言を各々が書き込み、オフ会が無事に終了した空気を界隈に浸透させていました。掲示板はひとまず役目を追え、実況スレも埋められる流れとなり、それからは当日仲が良くなった者達が引き続き交流を続けていたと思います。






その後僕は何を思ったのか、その週の終わり、モバゲーの日記だったか雑談スレだったかで、オフ会の愚痴を垂らし始めます。






僕は見た目関係なしに、終始マルちぃ☆に対して一方的に不愉快な思いを抱いていました。



雑談スレやモバゲーのフレンドのやりとりにおいて、マルちぃ☆は前々から自分が病弱であることと少しの素性を語っており、僕と同い年でありながらその儚さを遺憾なく発揮していました。



そんななか、彼女に同情なり応援が集まるようになり、オフ会当日が近づくにつれて病弱なマルちぃ☆の個スレを立ててまで応援する者が現れ、いつの間にかそのコミュニティは、彼女を中心としたオフ会の成功に努めることが企画の目的にすり替わっていったように見え、僕にとってそれは今で言う感動ポルノのように気味が悪くて仕方なかったのです。



詳しい文面は覚えていませんが、僕はそういった気持ちを「オフ会の私物化」「イタズラ心で始めた軽いノリのイベントで終わりにしたかったのにめんどくさいし重いんだよ。内輪にすんな」等と書きつづり、雑談スレと僕の日記コメ欄にはすぐに反論や説教が珍しく3つほど書き込まれ、マルちぃ☆に謝れだのなんだのと荒れました。僕は特に誰とも言い争うことなく「大変失礼なことを言ってしまいました。すいません。辞めます」と言い残し、二度と書き込むことはありませんでした。申し訳なさよりも、どうしようもない清清しさがありました。やっと辞められる。



次の日の朝、いつもの癖でiモードのブックマークにある掲示板を開くと「アクセス制限のため閲覧することができません」だのなんだのと表示が現れ、僕はその先に進むことができなくなりました。
それを機にモバゲーのアカウントは人生で二度目の転生を迎え、コテハンも変えました。彼らには二度と会うことが無いでしょう。いいや、こういうのはいつしか、もしかすると、またどこかのオフ会なんかでツケを払うことになるんでしょうかね。トホホ。