道端で知らん奴に刺されそうになったかと思った時のシャカフテ

─よう。


こないだ、シュロシエの帰りに道端で刺されそうになったんですよ。
俺の存在が迷惑なので社会から駆除されてもやむなしと思っていたんですが、どっこい生きています。
その時の話です。






───────────チェケラ。






シュロシエは午前で終わりの日でした。とっとと帰ればよいものを、夕方帰り。
ゲーセンの遠征のために雨が降っていようと板橋まで数時間もかけて歩き、ギルティギアでたかだか1クレだけ遊び、休憩もせずにいたからです。
雨は昼間であがり、ビニール傘が荷物でした。

週に一度ほど数時間かけて散歩をし、カフェや普段は行かないショッピングモールを巡る趣味があろうと、運動不足が解消される気配は一向に無く、体も弱い為、それだけで帰りはクタクタになっていました。

最寄り駅に着くころには17時。最近は日が沈むのも早く、天気も悪かったため、既に真っ暗。
駅から家まではバスに乗らず、棒のようになった脚を、ロボコンのモーターが壊れたロボットのようにぎこちなく動かし、精一杯歩きます。


我が家は駅から遠く、立地が悪いのです。
帰るには途中で、歩道のある代わりに真っ暗な通りか、歩道が無く車の往来が激しい狭い道か、その二択を選ぶ必要があります。

歩道が無いほうの道は狭いしくねくねで、歩行者だけでなく車にとってもマジで危ないので、いつも前者を通っています。


その日は一層暗かったのです。
濡れているはずのアスファルトは何も照り返しません。曇っていて月明かりも無ければ街灯も届かない、高いマンションに囲まれた谷底のような道だからです。
「ただまっすぐであること」しか判別としません。
今思い返しても、それなりに不安を覚えてもおかしくない帰路でしたが「帰り道でも二択迫られるとか俺の人生格ゲーみたいだな」と平和ボケADHD LEGENDSをかましていたため、僕はただ道の示す通り、まっすぐ歩き続けました。



車道を走る車たちのハイビームが、時々道の向こうに何があるかを示します。



それが30mほど先に、黒いパーカーのフードをかぶった兄ちゃんが居ることを教えてくれました。

動きからするに、どうやらこちらに向かって歩いている模様。


別段怪しくは思いませんでした。フードだって、このいつ雨が降っていてもオカシクない天候であれば被りたくもなるでしょう。


しかし、すれ違う寸前、その兄ちゃんは僕の懐に飛び込んできました。


僕は心底ビックリしましたが、兄ちゃんはその瞬間上手く立ち直り、僕に対しちょっと申し訳なさそうな態度を取ったあと、そのまま歩いてゆきました。


どうやら濡れた側溝のグレーチングで滑ってしまったようでした。



それだけの出来事です。



しかし一方、あの時僕が感じていたシナリオはこうでした。






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「急襲(く)るのか─ッ!?」


事故でコケそうになっていた彼のことなど知らず、支えることすら考えられなかった僕が取った行動です。



右手で帯のアタリを逆手持ちし、さながら帯刀状態であった傘の柄を左手で握り、鯉口を切ろうとする。
まさに抜刀寸前のポーズを取りました。


あの時の僕は「進撃の巨人」にて、イェレナの顔芸を見たミカサの反応を2万倍くらいまで薄めたような佇まいであったに違いありません。
抜刀しそうになったせいで体がこわばり、こちらまでコケそうになった記憶さえありますから。






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結局大事に至らなかったことは言うまでもありません。
ただ、気の利いたことひとつも出来なかったのか。相手は自分の振る舞いを見て、どう思ったか。
そればかり思い出されます。
コケそうになったらすれ違う相手が居合のポーズしてるんですから。そのオタクはアホに決まってます。




極めつけはこうです。




「大丈夫ですか」

「お気を付けて」


そのくらいは言えても良かったはずです。

言ってあげたかったな。




あろうことか、あのすれ違いざまに、コミュ障ワーキングメモリカツカツアスペマンの僕の口から漏れたのは、こんな台詞でした。





「おお……!」




もしインターネットの片隅に「道端でキモヲタに居合斬りされそうになった」という書き込みがあったら、僕が悪いです。






──────じゃあな。