【夢日記】途中から途中までの事件簿 1

燃やす女というのだから一体どんなシリアルキラーかとひそかに期待していたが、会ってみれば只の女子大生だった。はじめて燃やしたのは両親と、自分の生まれた病院だそうだ。次は初恋の相手、彼に思いを寄せるクラスメイト、そしてつい三月、自分が親を燃やしたと知らずにこれまで自分を育ててくれた施設の全て。彼女の感謝したものはすべて燃えてなくなるという。燃やしたものは跡形もなく灰になるとのことだ。彼女にとって感謝を覚え、尊いと感じた全てのものが、ある日突然灰になってしまうのだと。彼女が直接何らかの手段を持って燃やすことなく、次の朝には燃えてなくなっている。それが彼女の力といった感じだろうか。とんだ通り名だ。勘違いではないか?

依頼主である彼女には申し訳ないが、あまり信憑性のある話のように思えなかったので、途中からはいまいち会話の内容が頭に入ってこなかった。それよりも向かいの隣席でメモを取っていた助手の態度がだんだん横柄になっていった記憶がある。「感謝したから燃えたと決めるにはまだ早い」だの「あなたが燃やしているわけではない」「たまたまではないか」だの、いまいち要領を得ない発言だった。私のおぼろげな記憶といい勝負だ。

時に怒られている私が言うのも、今こうして面倒な説教にもならない小言をいうこの助手に失礼であるが、彼女の説教は割と上手なほうなのだ。私が「小言はいいから」と聞いていないふりをしながらよく聴かされる説教とは明らかに異なるもので、普段はこのような、男に「これだから女は」と思わせるほどの話し方をすることはしない、見た目以上に聡明な女性であることを私は知っている。何か理由があるにしろ、どうにも居心地が悪かったので、その何かを燃やしているらしい依頼主の方を持つかたちで仲裁に入ることにしたが、助手からはテーブルの下で脛を蹴ってまで止められてしまった。

最後までうつむいたままだった「燃やす女」を適当にフォローし、また連絡しますと締め、どこでも飲める安いコーヒーと特に季節限定でもないスイーツの代金を一緒に支払って店を出ると、すぐに助手による種明かしが始まった。「私達が親身になって依頼を受けると、明日には灰になっているかも」とのこと。
なるほど、と思った。あまりにも簡単な理由に気がつかなかったので私は少し焦りだしたが、「あなた途中で寝ていたから大丈夫でしょう」と言われ、少しホッとした。
兎に角、一連の家事については調べざるを得ない。しかし彼女に恩を感じさせない形で済ませねばならないのは、私とて胸が痛むし骨が折れる。ひとまず今日は昼間について記したところで終えるが、明日の朝にはこの手記も資料も、私と同じ灰になっている可能性がゼロではないので、一晩助手のもとに泊まってもらうことにしよう。