「ニートもニートなりに辛い」←本当か?なってみて分かったこと その1.5



どうも僕です。就活してますよ。


こないだ、珍しく面接があったんです。
書類選考に受かったからではないです。最初から書類選考がなかったからです。その話をしましょう。





面接というのはだいたい慣れない電車の路線に乗って、お金の払い方がイマイチ分からず、揺れるたび冷や汗をかく慣れないバスに乗って、少ししたところにオフィスビルがあって、殺伐としたせわしないエレベーターに乗って、慣れない内線を手に取り、受話器越しに挨拶をし、少し待つことが多いんです。


結構高い階なんだな、外の階段から綺麗な夕日が見えるんだろうな。ここで働いたら、何度も夜遅くに月を見上げることになるのかな。それでもいいか、無職よりは。例え使い潰されても、若いうちに金を稼げる人間になっておかないとな。


窓から見える低い空に気を取られ始める頃に、スーツ姿のおばさんが来ます。面接官の人かな、と思いながら、おそらく会議室として使用している部屋に通されると


「面接官を呼んで参りますので、おかけになってお待ちください」


と言われます。なんだ、この人じゃないのか。


待てと言われるとつい「つまり少しの間俺ひとりか」と思ってしまいます。


この間はだいたいメモ用の手帳に履歴書、事前に指定されたなら見せられる作品集、そういうものをテーブルに用意する時間ですが、それが終わるとどうしても、部屋に防犯カメラや放送用のスピーカーがあるかを確認したり、モニターにHDMI端子がきっちり刺さっているか、コンセントはどこにあるのか、プレイヤーやプロジェクターはズレていないか、椅子は引くと嫌な音が鳴らないか、鳴るなら面接官があとから入ってくるんだし先に椅子は引いておいてスッと立てるようにしよう。窓の枠にほこりは積もっていないか、倉庫と化しているのであれば、ここが普段あまり使われていないのかもしれない。使われていないならいないで、ここはハズレなのか?そもそもハズレとh


「お待たせいたしました、面接官の桑田(仮名)と申します。本日はよろしくお願いします」
「あ、郡山です。よろしくお願いします」


スッと立ち上がって、挨拶をします。相手と全く同じ構文で返すのが気持ち悪いのか、そうでないのかよく分かりません。まずは声が出ていればいいんです。面接練習のときのマニュアルと違うこと言ってるけどいいんです。僕は臨機応変に出来てます。そうです。「どうぞおかけになって」と言われて初めて座ることが出来る、今の自分はそれを守るためのロボット。それだけ覚えておきながら定石をなぞります。その意義を考えるほど気持ちが悪くなってきます。





就職対策の講義が学生時代にたくさんありましたが、テンプレである「ではまず1分間で自己紹介をしてください」といった感じのお題は、私は一度しか言われたことがありません。そのときはすぐに座って、ロックンローラーのようなラフなパーカーを着た面接官の方が、人生の勝負ごとにおいてすら『筆記』というパフォーマンスを十分に発揮することが出来ない相手の書いた履歴書を眺めながら


―へぇ~この大学?専門学校?はどこにあるんですか?

―家からは?実家?


とフランクに訊いてきます。調子がほぐれる?なんていうんでしたっけ?




そうやって履歴書の項目を1つずつ洗っていき、それが終わると「じゃあちょっと来てください。PC使いましょう」とオフィスの端っこの空き席に連れていかれます。実技です。


ちょっと前のモデルであろうi Macに、最新のAdobe CCがインストールされているようです。私はCC以降のものを触ったことがないので、ちょっと不安だなと思いながら指示どおりにPhotoshopを起動します。


『無題』の作業用ボードに、まぶしいグリッドが表示されます。こんなんだっけ?そう思い始めると、冷や汗が出てきます。


つい手が滑って、タスクバーのDreamweaverが起動されてしまいます。


あれ?おかしいな?「あーすいません間違えちゃって」「たまにある」なんて会話。


視界が、ぐにゃぁ・・・?ぐにゃぁ・・・。と歪み始め、作業用ボードのグリッドが「走れないようにしてあるCDショップ」のように見えてきて、クモの巣みたいだな。


なあんて思っていると、小さなクモがツー、とモニターにとまります。


面接官が卓上にある業務用ウェットティッシュの筒をパカッと開いて、サッと一枚取り出します。


自己主張の激しいホウレンソウのような色をしたDreamweaverのロゴの上を、クモが走ります。ヒメグモです。時々うちにも現れます。


ツッ!とファサッ!が同時に聞こえます。クモがつぶれます。綺麗にふき取られたモニターの上を、ウエットティッシュの水滴が汚していきます。私の冷や汗のようです。



「ありがとうございます」と反射的に左上を向いて言います。なぜか壁に貼ってある矢沢栄吉のポスターを背景に面接官のおっさんがにっこりとわらいます。ああ、やっぱりな。やっぱりなって何が。


気を取り直して作業に入ろうと、まずはホウレンソウを終了しなくては。そう思ってDreamweaverのロゴを右クリックすると、何故か反応しません。


起動準備中にあったロゴが跳ねるアニメーションも空中で止まっているので、おそらくフリーズか、ちょっと動作が重いのかな?そんな会話のあと、20秒ほどして右クリックを再び試みます。


そうするとオフィスにぼっかり穴が空き、階にあるものが下に落ちていきます。桑田さんも落ちていきます。


タダでさえ緊張していた私は頭がはちきれそうに痛くなっていたからか、頭から落ちていきます。





穴の底にマウスが見えます。




『右クリックで全て解決』そんな言葉が浮かびました。



そうか!



私は手を伸ばして、そのボタンに境界線のない神経質で悪趣味なi Macのマウスのだいたい右側を押します。









カチ。




義務とか事務的というか、そんな音がします。ボタンというのはいつもそうです。






気がつくと私は、前日にセットもしていない、セットする用事もない、とっくに電池の切れた目覚まし時計を叩いていました。携帯の時計を見ると朝の4時でした。




つまりどういうことかというと、ニートになるとこんな夢を見るということです。
このあとめちゃくちゃ良く寝ました。起きたら13時だったけど。